★第7回ジビエ料理コンテスト 一般・学生部門 農林水産省農村振興局長賞受賞作★
渡邊 篤子 様(服部栄養専門学校)
【レシピのポイント】
「硬い」「くせが強そう」というイメージのイノシシ肉。しかし実際イノシシ肉を調理し、食べてみると先行していたイメージが覆されました。味は豚肉に似ていて、それでいて強いコクと甘味そしてしっかりとした食感でした。そこで私は、もっとこの美味しいイノシシ肉を一般家庭でも普及できないかと考えました。私は、信州名物おやきが大好きなのでイノシシ肉を使い主食にもなり、おやつでも食べられるレシピはないかと考えました。おやきはハレ食でもあり、また日常食でもあります。しかも中の具材によって季節を感じることができ、簡単に調理ができます。実際におやきを食べたことがある方も、そうでない方も私の考案したレシピは老若男女、楽しめると思います。
日本においてイノシシは本州、四国、九州および周辺の島々で生息が確認されており、イノシシによる作物への食害はもちろん、耕地の掘り起こしや水路の破壊により、農業をやめてしまう農家も発生しております。このままイノシシが増え、農地を荒らし、農家をやめてしまう人が増えたら、現在日本で問題になっている食料生産量も下がり、そして食料自給率もどんどん低下してしまいます。多くのイノシシが食されることなく廃棄処分になっている問題と食料自給率上げるべく、今回のレシピの素材は国産のものを使用しました。
私のレシピは、イノシシ肉を使い信州の郷土料理である、おやきをアレンジしてみました。おやきの歴史は意外にも古く、縄文時代から食べられていたと言われています。古くから愛されているおやきとジビエであるイノシシ肉を、融合させたら面白いのではないかと考えました。
今回使うイノシシ肉は、部位を選ばずこま切れを使いました。イノシシ肉の栄養成分はジビエの中でもビタミンやコラーゲンが多く、血管の健康を保つ効果が期待されている不飽和脂肪酸を多く含んでおり、皮膚の健康を健やかに保つ働きや新陳代謝を活発にするビタミンB群や鉄分、亜鉛も豊富で子供の成長に関わる必要な栄養素をたっぷり含んでいます。またイノシシ肉は江戸時代では薬とされていたほど、良質なたんぱく質やビタミンが豊富に含まれていると、猟師の方からお話を伺うことができました。
三種のおやきの中身は秋の食材を沢山使用しました。一種類目のおやきは、秋でも美味しい茄子としめじと分葱を使い甜面醤で甘辛く中華風に仕上げました。しめじは、一年中簡単に手ごろな値段で入手できるだけでなく、低カロリーで豊富に含まれる食物繊維は腸内環境を整え、動脈硬化などの生活習慣病にも効果があります。しかもイノシシ肉と合わせると疲労回復倍増です。さらにねぎのもつアリシンは、ビタミンB1の吸収率を高める働きがあり、イノシシ肉と合わせることでより効果が高まります。
二種類目のおやきは、カボチャとイノシシ肉を合わせ、さらにお子様も大好きなカレー風味に仕上げました。カボチャにはビタミンA、ビタミンC、ビタミンEが豊富でイノシシ肉のビタミンB群を合わせるとさらに栄養価がアップします。またビタミンA、Eは脂溶性のビタミンなのでイノシシの脂と一緒に食べる事で効率よく栄養を摂ることができます。さらにイノシシは牛や豚に比べてカロリーも低いうえ、必須アミノ酸のスレオニンが多く含まれています。
三種類目のおやきは、紅玉リンゴとイノシシのアップルパイ風のデザートおやきにしました。リンゴは皮を剥かずそのまま利用することで、食物繊維とビタミンCの栄養価が沢山詰まっています。さらにリンゴに含まれるリンゴ酸は疲労の原因である乳酸の分解を促進し、疲労回復を早め新陳代謝を高める効果があります。さらにイノシシの持つビタミンB群や亜鉛はリンゴのビタミンCと摂取することで体に吸収されやすくなります。そして、レーズンはミネラルや食物繊維の増強にも良いとされています。
調理の特徴として誰でも簡単にできる調理工程で、どの家庭にもあるフライパンで、できあがるよう調理器具もシンプルにしました。イノシシ肉で加熱不足によるE型肝炎ウイルスの食中毒の発生を防ぐためにも、このレシピでは中の具材はすべてフライパンでしっかり加熱調理をして、さらに小麦粉の皮であんを包んだ後、フライパンで二度蒸し焼きにしているので、十分に加熱処理をされています。安全安心にご家庭で再現できます。
◆おやき生地
国産薄力粉 | 250g |
砂糖 | 15g |
ベーキングパウダー | 大さじ1 |
塩 | 2g |
水 | 140cc |
◆甜面醤あん
猪肉こまぎれ(サイズの目安:厚さ3mm×幅1cm) | 60g |
ナス | 100g |
シメジ | 30g |
ショウガ | 2g |
わけぎ | 1本 |
塩 | 少々 |
甜面醤 | 大さじ1弱 |
みりん | 大さじ1 |
料理酒 | 大さじ1 |
ごま油 | 小さじ1/2 |
サラダ油 | 少々 |
◆カボチャあん
猪肉こまぎれ(サイズの目安:厚さ3mm×幅1cm) | 60g |
カボチャ | 180g |
砂糖 | 小さじ1/2 |
醤油 | 小さじ1/2 |
みりん | 小さじ1/2 |
料理酒 | 小さじ1/2 |
エスビーカレー粉 | 小さじ1 |
サラダ油 | 少々 |
塩 | 少々 |
◆リンゴあん
猪肉こまぎれ(サイズの目安:厚さ3mm×幅1cm) | 60g |
リンゴ(紅玉) | 160g |
バター(有塩) | 10g |
レーズン | 10g |
砂糖 | 小さじ2 |
水 | 50cc |
ラム酒 | 小さじ1 |
シナモンパウダー | 少々 |
◆その他
【おやきを焼くとき】 | |
・サラダ油 | 少々 |
・水 | 適量 |
【生地を等分するとき】 | |
・国産薄力粉 | 少々 |
【飾り】 | |
笹の葉 | 5枚 |
① 中サイズのボールを用意し、国産薄力粉、砂糖、ベーキングパウダー、塩をボールに入れて菜箸を使い、よく粉を混ぜる。お水を少しずつ入れ生地を練る。生地がまとまったら、台で少し生地をよくこねてひとまとめにし、生地をボールに移し、ボールにラップをして生地を常温で30分寝かせる。
② 猪肉のこま切れを1cm幅に切る。〈甜面醤あん〉〈カボチャあん〉〈リンゴあん〉用で、ボールに分ける。イノシシを切ったまな板、包丁はすぐに洗う。手もしっかり洗浄する。
③ 甜面醤あんを作る。ショウガをみじん切りにする。茄子は縦半分に切り、半月切りにする。厚さは5mmほどに切る。シメジは石づきを取って、ほぐす。わけぎは小口切りしておく。フライパンにサラダ油を少々入れて弱火でショウガを炒め香りを出す。分量のイノシシ肉を入れて中火で炒め少し色が変わってきたら、ナスを炒める。茄子がしんなりしてきたらしめじも炒める。塩を少々加える。全体的に炒めたら、みりん、料理酒、甜面醤を加えて水分が少なくなるまで火を通す。火を止めたら、わけねと胡麻油を加えて、甜面醤あんをボールにとり粗熱を取る。
④ カボチャあんを作る。カボチャは皮を取り、3cm角ぐらいの大きさに切り、耐熱ボールにカボチャを入れて、600W電子レンジで3分温める。カボチャをフォークで潰し、塩を少々入れ、下味をつける。
フライパンを用意しサラダ油で中火から弱火の火力で猪肉を炒め、色が変わったら砂糖、みりん、酒、醤油を入れて炒める。水分がなくなったら、潰したカボチャと合わせてカレー粉を入れ、よく混ぜる。そして粗熱を取る。
⑤ リンゴあんを作る。リンゴは芯と種の部分を取り、皮を剥かず、1cm各の大きさに切る。レーズンは細かく包丁で刻む。フライパンにバターを入れて弱火でリンゴを炒める。少しリンゴの色が変わってきたら、塩少々で下味をつけた猪肉をフライパンに入れ炒める。砂糖、レーズンを入れて少し炒めたら、ラム酒を入れ香りを出す。水を入れ、水気がなくなるまで弱火で煮込む。できたらボールに取り粗熱を取る。
⑥ 寝かせていた生地をボールから取り出し、台に生地がくっつかない様に薄力粉を振り、生地を12等分し、生地を丸める。まず4つ分の生地を、薄力粉を振っためん棒で手のひらより少し小さ伸ばす。甜面醤あんを四等分にして伸ばした生地の中央におき、周囲の生地を中央に寄せてひだを作りながら包み、口をしっかり閉じる。閉じた口を下にして、丸く成形し、軽く潰す。
⑦ おやきが4つ焼けるぐらいのテフロン加工の蓋付フライパンを用意する。フライパンにサラダ油を少々入れて、中火で甜面醤あんのおやきを焼く。両面少し焼き目が付いたら、おやきが1/4程度隠れるぐらい水を入れて蓋をする。弱火で加熱し、水気がなくなる位(10分程)蒸し焼きにする。
⑧ ⑥、⑦の工程をカボチャあんとリンゴあんで作る。
⑨ お皿に笹の葉を敷き、盛って完成。