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「ブームではなく文化」としてのジビエへ ――11月5日イベント「ジビエを食べて地域と繋がる」

2020年11月07日

(パネルディスカッションの様子。左が伊豆市・森田氏、右がエコッツェリア協会・松井氏。質問、コメントが多数チャットで書き込まれている。)

11月5日、東京・丸の内にある「3×3 Lab Future(さんさんラボフューチャー)」で、SDGs(Sustainable Development Goals)とジビエをテーマにしたイベント「ジビエを食べて地域と繋がる ~美味しいからSDGsへ ~」が開催され、オンラインで60名を超す大勢のお客様が集まり、活発な議論を交わしました。弊法人代表の藤木も登壇させていただき、主にジビエ料理についてお話ししました。

このイベントは、大手町・丸の内・有楽町(大丸有)で展開されているプロジェクト「大丸有SDGs ACT5」のプログラムのひとつとして開催されたもので、ジビエを通じて、未来の食、地方と都市の関係、自然と人間の関係を考えることを目的としています。

話題提供には、熊本県宇城市の「くまもと☆農家ハンター」ジビエファーム施設長の井上拓哉氏、静岡県伊豆市、産業部農林水産課 イズシカ問屋担当の森田一穂氏が登壇。井上氏は農業者・捕獲者、施設運営者としての視点から現状と活動を紹介し、森田氏からは、行政の立場からの同市のジビエの取り組みの紹介がありました。また、話題提供の後は、井上氏、森田氏、藤木によるパネルディスカッションも行い、ジビエ、地域の鳥獣被害などについて理解を深めました。

パネルディスカッションの最後には、立場の異なる3者でしたが、ジビエを単なるブームとして終わらせてしまってはいけない、食文化として定着させることが必要という点で一致し、「ブームではなく文化を」と視聴者に訴えました。

 

(くまもと☆農家ハンターの井上氏は熊本からオンラインで登壇。)

 

 

参加者が一般の方、主催者もジビエと直接的には関係のない民間企業、まちづくり団体ということもあり、普段目にするジビエ・狩猟関係のイベントとは若干趣を異にしている点が印象的なイベントでした。

主催した「大丸有SDGs ACT5」事務局長の長井頼寛氏は、話題提供、パネルディスカッションを通じチャットで参加者から多くの質問、コメントが寄せられたことについて「予想以上の反響」と評価するとともに、「背景にある課題も含め、地道に発信していくことに意味があると強く感じた」と感想を述べています。また、ACT5では2021年1月には 新丸の内ビルディングの飲食店フロア「marunouchi HOUSE」でジビエフェアを開催する予定となっており、引き続き大丸有でジビエを発信していくことになっています。

「社会課題としてのジビエというよりは、まずは『おいしい』をキーワードに入ってもらいたい。やはり、食べてから見る、見てから食べるといったように、五感で感じ、考えることが大事で、そこから真摯に取り組むきっかけを創出することができるのではないかと思います。この取り組みを通じて、来場者の皆さんに、地域のことを感じる習慣をつけていっていただければと考えています」(長井氏)

司会、ファシリテーターを務めた松井宏宇氏は、会場の3×3 Lab Futureを運営するまちづくり団体「エコッツェリア協会」の環境・R&Dディレクター。自然環境の問題に造詣が深く、話題提供の前には「今なぜジビエか」の解説も行っており、より広い「自然環境」の視点からジビエを論じ、鹿やイノシシを古くから人と同じく日本に住んできた「隣人」であると語っています。

「今回、ジビエをめぐる課題と魅力を良く伝えることができたという手応え。しかし、文化としてのジビエを定着させるには、“古くからの隣人としての獣”として考えることも必要ではないでしょうか。その視点がないと、単に消費を増やせばいいという、ブームとしてのジビエで終わってしまう可能性もある。今後の消費拡大に向けてさまざまに模索していきたい」(松井氏)

冒頭の話題提供の中で松井氏は、鹿・イノシシは、もともと農林業などに悪影響がある生き物であったと同時に、重要な食べ物はもちろん毛皮などとしての利用も重要な生き物でしたが、大正時代以降、大規模な捕獲により数が激減したことを図示して見せ、「その後私たち人間との関わりが薄くなる一方で現在では鹿・イノシシが増加しているということ。この“古くからの隣人”との関わりをいま一度考えないといけない時代が来ているのではないでしょうか。その関わり方の重要な一つが食べ物、ジビエという形なのだと感じています」と話しています。

鳥獣被害、ジビエを、平面的・一方的に捉えるのではなく、多角的に論じることで、新たなジビエの可能性が見えてくることを感じさせるイベントとなりました。ジビエを物珍しさや話題性だけで扱う時代から、真摯に、包括的に取り組む時代へと移り変わりつつあることを感じさせます。今後の大丸有からのジビエ発信に注目です。