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徳島県の皆さんの「おいしさ」へのこだわりがすごい――11月2日 カットチャート講習会・HACCPに沿った衛生管理の個別相談会

2021年11月24日

 11月2日、徳島県主催の講習会・相談会に、弊協会の代表理事の藤木、事務局長の鮎澤をお招きいただきました。会場は、県が鹿の一時飼養技術の実証試験を行っている「シカ牧場」がある那賀町です。

 講習会は「カットチャート講習会」を実施しました。「より広い市場を獲得していくためには、国産ジビエ認証制度のカットチャートの共有が必要と判断し開催」(徳島県関係者)したもので、今回は新型コロナウイルス感染対策として90分のショートレクチャーを、10名ずつ、参加者を入れ替えて2回実施。また、相談会は「HACCPに沿った衛生管理の個別相談会」が、義務化されたHACCPへの対応を推進する目的で開催されました。相談会には鮎澤が対応。同会場では、同じくHACCP制度に詳しい、株式会社サラヤさまも相談ブースを設置しました。

 

◆鹿の飼養、生体搬入というこだわり

「シカ牧場」で放し飼いされている鹿

 講習会・相談会に先立ち、徳島県が取り組んでいる鹿の一時飼養施設を見学させていただきました。鹿の肉質の向上・安定化を目的に捕獲後の飼養期間や餌などを検証しているもので、肉質の分析には県研究機関だけでなく、徳島大学も協力しています。

 施設は、那賀町の静かな山中にあります。以前、道路に近い畑地での飼養を試みたところ、シカが怯え、身を隠す場所が無く、ストレスが溜まってしまいうまく行かなかったことから、山中のエリアに柵を設け、10頭ほどを放し飼いにしています。柵内には、シカが落ち着いて隠れられるように、遮蔽物となるよう植栽しています。樹種はシカが食べないミツマタを選定しています。

餌をコントロールするために小屋で飼育されている鹿。亜種であるキュウシュウジカのため小さいのが特徴

 餌をコントロールし検証するため、24頭を6頭ずつ4群に分けて小屋で飼育。粗飼料、濃厚飼料を複数組み合わせ、そのバランスを変えるなどし、それが肉質にどのように影響するかを調べています。県農林水産部の新居さん(鳥獣対策・ふるさと創造課 ジビエ推進担当)は「高齢のシカほど脂質が増え、イノシン酸などの旨味成分が増す傾向にあるようだ」と話しています。歳を取ると脂肪が付きやすいのは人間と同じ……ってそれはシカに失礼でしょうか。シカには濃厚飼料を好む傾向があり肉質にも好影響が見られますが、一方で反芻動物には不向きな面もあり、そのバランスが難しいところ。また、餌によっては1日一頭あたり100円の経費がかかるなど、まだまだ課題は残ります。

 しかし、その「美味しさ」の探求には頭が下がります。カットチャート講習会の会場にお借りした同町木沢地区の「木沢シカ肉等加工処理施設」は公設民営で、生体搬入が義務付けられています。搬入時に鹿が暴れないようにするなど苦労も多く、全国でもまだまだ例が少ないにも関わらず取り組むのも、また徳島県らしい美味しさの探求心故でしょうか。

 近くにある町の施設「四季美谷温泉」で、県の施設で飼養された肉を試食させていただきましたが、確かに!肉の味が異なっていました。

 藤木曰く「牛肉と変わらない」。下味なしで、ごくごく普通にフライパンで焼いただけのもので、悪い言い方をすれば、肉の悪い面が出やすい調理法です。しかし、これがうまい。飼養期間や餌の違いで分けて出していただき、5種類ありましたが、確かに味が変わっていることが分かります。どれも血抜き等の処理はしっかりしているのは当たり前ですが、ある肉は明らかに鹿らしいのに、別の肉はまったく鹿らしさがなく、一瞬なんの肉か分からないほど。また、別の皿は明らかに旨味が増しており、脂質が多いことを感じさせました。

 鹿肉は処理の仕方や産地によって、その味が大きく変わることが難しさであり、同時に楽しさや醍醐味でもあります。しかし、このように美味しい鹿肉を探求するのもまた、楽しみのひとつかもしれません。

 

◆HACCPへの挑戦

 この日の「HACCPに沿った衛生管理の個別相談会」は、カットチャート講習会と並行し、四季美谷温泉に会場をお借りして実施されました。

 今回は、4施設から8名が参加し(うち2施設は建築準備中)、国産ジビエ認証についての相談もありました。徳島県ではすでに食肉処理施設向けのHACCP研修会が繰り返し開催されており、相談会の参加施設でもHACCPに沿った衛生管理が定着しつつある印象でした。皆さんからは「徳島県は保健所が厳しいから」との声が複数聞かれましたが、消費者にとっては、食肉を生産する処理施設で衛生管理に対する意識が高いことは、品質の良いジビエを安心して食すことができる基本的な条件。家畜では求められて当然の衛生管理がジビエの業界では遅れているのが全国の実情ですが、徳島県は他県に比べてもかなり積極的に衛生教育の機会を設けていることを感じさせました。

 相談会では「衛生管理・個体受入の記録用紙の項目はこれで大丈夫か」「冷蔵庫の温度チェックは解体処理のない日は遠隔で行っているがそれでよいか」「金属検出器はハンディタイプでよいか」など日々感じている小さな疑問も含め、適切な施設設備についてから、販路の展開まで幅広いご相談をいただきました。

 国産ジビエ認証の取得を検討されている施設からは、認証制度の審査項目や取得時の費用、定期監査や更新の手続き等についてもご質問がありました。厚生労働省のガイドラインに沿った解体処理方法や施設基準についてお話させていただくと同時に、参加者の皆様が解体処理の場面で工夫されていること、感じていらっしゃること、悩んでいらっしゃることをたくさんお聞きすることができ、多様な現場の状況について理解を深めることができました。

 お話ししだすといろいろな疑問や質問が湧き出てきて、さらにさまざまな方向に話が展開するため、設定時間の1時間では到底足りず、それぞれ1時間近く延長することとなりました。

 

◆その「おこだわり」!

 カットチャート講習会は、「料理人などの買う側の言葉や理屈が分かると、売る幅が広がるということを知ってほしい」(藤木)という主旨のもの。

「コロナ禍が落ち着いてきて、次第にジビエを欲しがる飲食店が増えてきている印象。そういう新規の料理人は、カットチャートの言葉でオーダーすることが多い。そういう人に対応し、買い手を獲得していくという意味で、カットチャートをうまく使ってください」(藤木)

 枝肉からいわゆる「大バラシ」、各部位を取り分ける「バラシ」までを、カットチャートに従って行い、カットの仕方だけでなく、売る際に、「こんなことを伝えると喜ばれる」といったアドバイスも。例えば

・外モモは繊維が多く、ステーキなど塊で使いにくい。スライスにして使うのが◎。
・ロースは掃除すると高く売れるが、掃除する際に出る端材はダシやソースを作るのに使える。
・芯玉には中に筋が2本入っていることをちゃんと伝える(知らない料理人が多い)。

 

 売るためのテクニックとしては、

・シキンボは、外モモに付けて売ると喜ばれるし、外モモが高く売れる。
・前足はバラした後に、塊にして冷凍してからスライスすると料理人に使いやすい肉として売れる。
・前足を挽き材にする時は、一般的な3mmだけでなく9mmも用意すると、喜ばれる。

といったお話をさせていただきました。資料としてお配りした肉の部位説明などもコピーして渡すと喜ばれるかもしれません。

 ある参加者は「カットの仕方で食べやすさ、調理の仕方にそこまで広がりがあるというのは発見だった。料理人の立場からのアドバイスは、売り先を考えるうえですごく参考になった」と話していました。

 一方で、講習の途中から熱心に「自分ならこうするがどうか」「こうやったらダメなのか」と、現状のご自身の取り組みと照らし合わせての質問やご意見も多数いただくなど、ものすごい熱量を感じさせる方々も。ある参加者は自らナイフをとって、自分ならこうやる、という方法をやってみせ「なるほど!」と藤木を唸らせていました。

 もともとジビエをやっている方は、好きでやっている分、工夫に工夫を重ねて自分なりのスタイルを確立していることがとても多いです。ワナの掛け方から肉のカットの仕方まで、「これが一番うまい」を探求し続けてきた結果こうしているという、創意工夫とこだわりの結晶みたいなものです。だから、各地で講習をすると「自分ならこうする」と意見、質問を出してくる方が多いのですが、徳島の場合、その傾向が特に強いようでした。昨年徳島市で講習した際もそうでしたし、そのこだわりの強さは徳島県庁の皆さんも認めるところです。

 

◆風土が育てる美味しさとこだわり

 ジビエへのこだわりは個人の資質によるところもあるのでしょうが、一方で、徳島県の山中に広がる丁寧な石積みや箱庭のように折り重なる段々畑を見ていると、こうした風土によって創意工夫の気質が育てられるのではないかと考えさせられます。考えてみれば、急傾斜地での特殊な農法で世界農業遺産(GIAHS)に認定された「にし阿波の傾斜地農耕システム」もすぐそばです。徳島県の山中には、「木頭杉」で知られる林業を背景にした、豊かな建築文化もあります。丁寧な暮らしと豊かな文化。そして限られた農地で生きるための創意工夫。そうしたものが混じり合って、現在の徳島県のジビエ(阿波地美栄)がかたちづくられているのかもしれません。