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ジビエが、地域と都市をつなぐ――11月16日「都市部懇談会」

2023年03月16日

生産者と料理人をつなぐ取り組みは、ジビエに限らずさまざまな生産品で盛んに行われてきました。生産の現場を知ることで、料理が変わり、消費のあり方が変わる。ジビエでも、熱心な料理人は施設や捕獲現場に足を運ぶことが多いのは良く知られています。

この生産地と外食産業をつなぐ取り組みを組織的に行ったのが「産地懇談会」「都市部懇談会」です。これは農林水産省の補助事業「令和4年度 外食・中食事業者と農林漁業者のジビエ肉マッチング・活用促進実証事業」で採択された株式会社ぐるなびが行ったもの。10月の「産地懇談会」では、料理人をジビエの生産地の現場に案内し、現場のストーリーを体験してもらっています。その料理人たちがその経験を活かしたジビエ料理をお披露目したのが11月16日に開催された「都市部懇談会」です。本事業において、ジビエ協はジビエ産地の紹介や講師などで協力しており、この日も招かれ、解体講習や解説などを行いました。

10月の産地懇談会で訪れた施設は、クルックフィールズ(千葉県木更津市)、京丹波自然工房(京都府京丹波町)、宇佐ジビエファクトリー(大分県宇佐市)の3カ所(実施順)。クルックフィールズにはシェフ3名、その他の施設には2名ずつ、計7名の料理人が参加しました。参加料理人は、ぐるなびなどが主宰・運営する料理人のコミュニティ「CLUB RED」から募集された方々です。CLUB REDには技術があり、意欲的な全国の若い料理人が多数在籍しています。産地懇談会では、施設の見学はもちろんのこと、施設の方から地域のストーリーや、解体処理の実際、ジビエにかける思いなどをヒアリングしたほか、獲れたジビエの料理も食べてもらってもいます。この日の都市部懇談会には、クルックフィールズの岡田修さん、京丹波自然工房の垣内規誠さんもゲストとして列席しました。


都市部懇談会には、CLUB REDからさらに10名の料理人が選出され、ゲストとして参加。まずは3施設の鹿肉、イノシシ肉をシンプルな味付け・調理で試食し、クルックフィールズ岡田さん、京丹波自然工房垣内さんには、それぞれの地域の特色、こだわりなどを語ってもらいました。その後、藤木による解体講習があり、いよいよ本番のCLUB REDの料理人たちによる料理の実食となりました。

 

 

若き料理人たちの本気のジビエ

調理した料理人、料理は以下の通りです。

<訪問先 クルックフィールズ>

◆「猪肉小籠包」立岩幸四郎さん(中国料理 東京都・Wakiya)※写真左……「クルックフィールズの肉は衛生面、品質において徹底管理されており、ドリップもない美しい肉。調味料や香辛料を使わずに肉の旨味を前面に出しました。やるなら万人受けするもの、店で実際に出しやすいものとして小籠包を選びました。中華には低温調理はないので、熱いものを熱いまま食べていただきたいです」

◆「牡丹鍋をフレンチの解釈で」高木和也さん(フランス料理 東京都・ars)※写真中……「日本のジビエは、大人の事情が絡んだビジネス臭の強いもの、というイメージがありましたが、クルックフィールズでは端材を子どもの食育に使うなど、『未来に向けた資源』として扱っていることが印象的でした。そこで、誰でも食べられるよう間口の広い料理として、味噌を使って牡丹鍋風の料理にしました」

◆「千葉 鹿のラビオリ」廣川拓渡さん(フランス料理 東京都・イーストギャラリー)※写真右……「感じたのは、クルックフィールズの鹿肉は、すんなり体に受け入れられる味で、素直に活力が湧いてくるということ。料理人のエゴではなく、素材を引き出すことが大事だと思った。それを踏まえ、鹿肉と千葉県産のはまぐりや香草、落花生などを使って、体に良いものを作ることを心がけました」

 

<訪問先 京丹波自然工房>

◆「鹿肉のアロス」清水和博さん(スペイン バスク料理 大阪府・エチョラ)※写真左……「アートキューブの肉に感じたのは肉質の良さと旨味の強さ。現地で、骨を水で煮出しただけの出汁をいただいて実に美味しかったので、出汁を楽しめる料理として、米を出汁で炊いてみました。また、鹿を一頭買いさせてもらい、首とスネの肉を柔らかく煮て煮こごりにした後、改めて焼いたものを乗せています」

 

◆「滋味溢れるジビエのコンソメスープ 鹿肉のメンチカツ」高橋雄一さん(フランス料理・イタリア料理 滋賀県・Orpo)※写真右……「京丹波を訪問して、とても愛情を感じる肉だと感じたので、温かみの感じられる料理を作りたいと思いました。とはいえ単価の高いお店ではないので、挽き材を使わせてもらい、メンチにしてみました。鹿だけだとタンパクなので脂も足して、味わいを出しています」

 

<訪問先 宇佐ジビエファクトリー>

◆「猪のバロティーヌ 生息地の情景」波多江優一さん(フランス料理 福岡県・三井港倶楽部)※写真左……「宇佐では運良く捕獲の現場から見ることができて、料理人はこの情景を伝えていなかければいけないと強く感じました。料理では、その捕獲して止め刺しをしている状況を演出してみました。これまでは『季節だから』『旬だから』という理由で素材を選んでいましたが、これからは、『生命をいただく』ということを意識して食材を選びたい。また、命を余すことなくいただいているということもできるだけメッセージとして伝えたいと考えています」

 

◆「黄飯(おうはん)/鹿/椎茸」海野元気さん(新北欧料理 福岡県・snow)※写真右……「福岡が九州で一番の獣害となったこともあって、ジビエに向かい合わなければいけないと思うようになりました。もともと地域の食材、地域の料理を組み合わせ、ここにしかない料理を創作してきました。今回も鹿の出汁で大分の伝統料理『黄飯』をアレンジしました。ジビエを食べさせる、というよりも、ジビエをひとつの食材として、料理を組み立てるという考え方で提供していきたいと思います」

 

試食を提供した後の意見交換では、都市部懇談会から参加の10名の料理人からの質問、意見が相次ぎました。日本各地からの参加で、地域課題への意識も高く、ジビエを扱っている人も少なくありません。ジビエとどう向き合うのが良いか、ジビエにおける課題は、メリットはなにか。活発な意見交換が行われていました。

産地懇談会に参加した料理人も含め、この日集まった料理人たちに共通して感じられるのは、食の背景にあるものをまるごと受け取ろうとする真摯な姿勢です。それはジビエにかぎらず、野菜でも牛豚鶏などの肉に対しても同じでしょう。ただジビエは、その背景にあるものが、他のものよりもちょっと先鋭的で分かりやすいという違いがあるだけなのかもしれません。だからこの料理人たちは、ジビエをことさら特別な食材と見做しておらず、通常の食材のひとつとして向き合おうとしています。参加者の一人の言葉が象徴的です。

「ジビエを一過性のブームで終わらせてはいけない。牛豚と同じように使いたいし、一般の人でも買えるようにスーパーに並ぶ時代、そこにどう近づけるかが、これから料理人が取り組むべき課題なのではないかと思います」

志を持った料理人たちが、もっと多く関わるようになることで、ジビエ振興の段階が、さらにひとつ進む。そんなことを感じさせる懇談会でした。

 

ゲストたちの思い

 

ジビエの産地と料理人を結ぶ取り組みはなかなか例がなく、生産者にとっても意義深いものとなったようでした。

クルックフィールズ・岡田さんは、料理人の皆さんの向上心、志の高さに感じ入ったとし、次のように感想を話しています。

「自分の処理場のお肉をレストランに販売した後、どのような気持ちで、どのように提供されるかが、直接分かり、大変うれしかったです。自分自身の活動であるジビエを捕獲、解体、加工を一貫して行うことで得られる情報、知識や経験が、次の世代に受け継がれるのであれば、惜しみなく分かち合えるよう取り組んで参りたいと思いました。

また、意見交換会でさまざまなご意見を聞いて、ジビエの認知度を上げるための活動が今後の課題であるとも感じました。消費量を増やすためにも、まずはジビエの安全性を周知すること、そしてさらに、それぞれの産地のジビエの特性に目を向けてもらえるよう、生産者側が情報発信する必要があると思いました」

料理人と触れ合うことで、周知と情報発信が今後の課題にも気づいたという岡田さん。これはすべての施設に共通することかもしれません。

 

京丹波自然工房の垣内さんは料理人の皆さんが社会課題に対して高い意識を持っていることに驚いたとし、消費者に生産者の思い、産地の姿を伝えられるのは料理人だけではないか、と期待を語りました。

「特殊な素材を使いこだわった料理を作る料理人の方には、産地のストーリーは必須の情報であるに違いありません。それを伝えることができ、優れた技術で素材の美味しさを120%引き出していただき、最高でした。消費者に産地のことを知ってもらうのがブランド化であり地域活性化。その橋渡しができるのは料理人の方だけですから、今回のように、産地のストーリーを知って、語っていただきたいと思いました」

また、産地に来れなかった料理人の皆さんにも、もっと産地の思いを伝えられたら良かったとも振り返っています。

「産地懇談会は少人数でしっかりと会話ができましたが、都市部懇談会は試食が中心だったので、産地のことをあまり知ってもらえなかったかも。衛生管理に関心の高い皆さんですから、施設の衛生管理を知り、納得できる施設から購入できるようになるといいですね。同様に国産ジビエ認証のことも知ってもらえれば良いと思いました」

 

ジビエ協代表理事の藤木は、ジビエの美味しさを消費者に伝えるのは料理人にしかできないことだと話しています。

「美味しいものを食べれば、人の意識は必ずそこに向きます。美味しいと思えば、食材やその産地をもっと知りたいと思うようになります。そしてそれは、料理人にしかできないこと。自分もジビエに関わるようになって、料理人で良かったと強く実感しています。皆さんもそれを感じていることと思います。ぜひ、これからもそれぞれのお店で、ジビエに取り組んでいってください」

また、近年さらに各地での講習が増加していることに触れ、「皆さんにも講師として活躍できるように成長してほしい」と呼びかけました。ジビエ協では、ジビエ人気の高まりを受けて、ジビエを扱う料理人の集まり、団体のようなものを組織したいと考えています。今回のことがきっかけとなって、ジビエ料理人の団体が立ち上がることが期待されます。

本イベントにゲストとして招かれた農林水産省大臣官房の古川敦史さん(新事業・食品産業部 外食・食文化課 国際化推進専門官)は、次のように今回の取り組みを評価しています。

「料理人が、生産者のストーリーを受け取り料理に活かすことは、農水省でも取り組んできたことで、今回のイベントは非常に意義深いと認識しています。特にジビエは産地と料理人との情報格差が大きいことが現実だと思います。産地懇談会・都市部懇談会のような場は今後も設ける必要があるでしょう。また、そのストーリーを伝えるために、料理人が言葉を発することも大切です。都市部懇談会はその意味でも、非常に良い取り組みだったと思います」

また、ジビエ振興の今後のポイントが「流通」ではないかとも指摘。

「今後のジビエの課題は、やはり流通だと思います。自然、天然のものなので供給量や価格の安定は難しいでしょうが、料理人の立場からするとなんとかしてほしいところでしょう。国産ジビエ認証によって産地での衛生管理は確立しつつありますが、流通における温度管理など、流通、消費面の課題に取り組んでいくことも重要になるのでは」

そして最後に、料理人への期待を次のように語っています。

「ジビエは固い、臭いというイメージが強いですが、シェフの手に掛かると、こんなにも柔らかく、美味しくなるのかと、楽しくいただきました。CLUB REDの料理人の皆さんの、腕・技術はもちろんのことですが、意識の高さ・社会課題への熱意には感嘆させられました。料理人は独立自尊の傾向が強いものですが、このような料理人が集い、仲間となって、情報を共有し、意識を高めていくのは素晴らしいこと。ぜひ今後も料理人のみなさんが一体となって、ジビエに取り組んでいってほしいと思います」

このような、生産地と都市部をつなぐ取り組みがさらに広がり、ジビエ消費が拡大することが期待されます。

 


CLUB REDでもイベントの模様が紹介されています。

【ジビエ×CLUB RED 都市部懇談会】レポート